ブータンは、他の南アジア諸国と比較しても、教育対策に特に力を入れており、その成果は目を見張るものがあると言えるでしょう。これは、小国かつ資源も限られているブータンにとって、人材こそが最大の宝である、という国のリーダーたちの策による成果と言えます。ブータンに近代教育が本格的に普及し始めたのは1960年代とごく最近ですが（それまでは、僧院での仏教に基づく道徳教育が行われていました）、現在ではブータン全国に551の学校、107の教育施設が普及し、98.7%の子どもたちが、教育を受けられている状態にあります。（2015年6月現在、172,303名の子どもたちが初等・中等教育を受けています）

ブータンにお越しになったことがある方は、ブータンの人々、とくに若者の英語力の高さに驚かれたことと思います。それもそのはず、ブータンでは近代教育の導入時、インド式の英語教育が用いられたため、子供たちは国語である「ゾンカ語」の授業以外は、初等教育からすべて英語による授業を受けているのです。英語教育の普及は、グローバルな視野を持って自国の立ち位置をしっかりと見据えられる人材を輩出するための、前第4代国王の聡明な策でもあります。

人口の分布としても、まだ10代～20代の若者が大多数を占めるブータン。今後の国の長期的な発展のためにも、若者への教育・活躍の場の提供が最も大事であると、現国王も、ことあるごとに言及し、全国の教育機関を直々に訪れては、生徒たちを激励しています。政府も、2015年は、国家予算の18%を教育分野に充てています。ちなみに、ブータンではクラス12（高校3年生）まで、公立学校の教育費は無償ですが、義務教育の制度はとられていません。高等教育に関しては、国立大学(Royal University of Bhutan)の傘下に、全国8つのカレッジが設立され、現在は約1万人の大学生が学んでいます。そのうち、実に82%の大学生が、政府からの奨学金を支給されています。

その外にも、以下のような形で、ブータンの教育事情は日々進化しているといえます。

• 幼稚園教育の拡大（2013年には165か所であったのが、2015年には210か所に増加）。
• スカウト活動の活性化（ブータンでは男女混合で、日本でいうボーイスカウト、ガールスカウトの活動が行われています）。
• 若年期に教育を受けられなかった人々に対するノンフォーマルエデュケーションの提供。
• 12月9日を『読書の日(National Reading Year)』に設定。
• 障碍をもつ児童への教育機会の拡大。
• 私立学校設立の推進（現在の私立学校数は、33校の初等・中等教育機関、1校の高等教育機関）。現在、5,000名以上のブータン人が海外の大学に留学しているため、ブータン国内に私立の大学や専門学校を拡充する余地があるといえます。

このように、教育の機会がどんどん拡大しているブータン。しかしながら、十分な教育を受けた若者の期待に沿うような、魅力的な就職先が不足している、すなわち、教育水準に見合った産業が十分に育っていないという本質的な問題が、その先に大きく横たわっているのが現状です。若者の失業問題については、また別の記事にてご紹介したいと思います。