ツェチュ。なかなか聞きなれない言葉ですが、ブータンに20あるゾンカク(県)それぞれで、年に1回開催される盛大なお祭を、このように呼びます。8世紀にブータンに仏教を伝えた高僧、グル・リンポチェの生誕を祝うこのお祭。グル・リンポチェの誕生日は、ブータン暦で「10日目」だったことから、ゾンカ語で「10日」を意味する「ツェチュ」が、お祭の名前になっているのです。
ブータン暦は占星術で決められるため、毎年、そしてゾンカクごとに、「ツェチュ」の日程は異なります。今年のハ・ツェチュは、10月9日~11日の3日間。もちろん、私もRSPNの同僚と一緒に参加してきました。
今年のブータンは、10月に入っても、いつまでも雨季のようなぐずついた天気が続く、異様な気候。ハ・ツェチュも、初日はあいにく雨模様となりましたが、2日目からは、何とかお天気も回復してくれました。
ハ・ツェチュは、ラカン・カルポという、ハ随一の由緒あるお寺での開催。今年改装が終わったばかりの、神々しいお寺の前の広場で、ブータン仏教の教えを体現した、様々な仮面舞踏(チャム)が繰り広げられました。仮面をつけた踊り手は、お坊さんたちです。ブータンの人々は、ツェチュで仮面舞踏を一目見れば、その年の罪を洗い流し、新たな気持ちで清々しい1年を迎えられる、と信仰しています。そのためか、老若男女、みなさん、とっても嬉しそうな顔でツェチュ会場に向かいます。

僧侶による仮面舞踏、チャム

着飾って笑顔のお母さん
ツェチュに参列する皆さんが嬉しそうな顔をしている理由は、他にもあります。そう、コミュニティの人たちが、ほぼ全員集まるといっても過言ではないこのお祭は、絶好の出会いの場。男女共に、素敵な出会いを求めて、ツェチュには、自分の持っている一番とっておきの美しい民族衣装を身にまとって出かけます。その色彩や模様の鮮やかさたるや、仮面踊りにも増して、訪れた人々を魅了します。

晴れ姿のローカルガイドたちも、楽しそう
そして、お祭といえばやっぱり出店。民族衣装の生地や、日用雑貨、ハの名物そば粉餃子の「ヒュンテ」、とーっても固い乾燥チーズ、その名も“ハの人の骨”を意味する「ハビュルト」、そしてもちろんお酒など、売る人も買う人も、みんな忙しそうに、縁日を楽しんでいました。

乾燥チーズ「ハビュルト」を売るおばあさん
そして、ブータンの人々の「ハレ」の日のお決まり、ファミリー・ピクニック。私も、先日「道の駅研修」で一緒に日本へ行った、リンチェン・カンドゥさん親戚一同のピクニックに招待してもらいました。豪華な民族衣装に身を包んでのピクニック・ランチは、また格別。ごはんを食べ終わると、皆で楽しく写真撮影タイムです。

和やかなピクニック

ブータンの人たちも、スマホで撮影が大好き!
私はというと、観光PRのためのツェチュ撮影に加え、着飾ったローカルガイドたちの写真や動画の撮影で大忙し。ガイドの皆さんの協力のおかげで、なかなかステキなカットがたくさん撮れましたよ。

ハの谷を望むビュー・ポイントでキメるソナム・ドルジ君
ツェチュのハイライトは、最終日早朝、ハ・ゾンに掲げられる、高僧グル・リンポチェのトンドル。トンドルは、仏画のタペストリーを意味します。夜明け前の5時頃から祈祷が始まり、地域の人々が、トンドルを見て、触れて、身を清めるべく、次々と集まります。そして、日の出前にはお寺の蔵にしまわれるのが習わしです。私も、眠い目をこすって4時半には会場入りし、一番乗りで、トンドルを拝んで身を清めることができました。ティンプーの伝統技芸院で仏画を学び、卒業された日本人女性の方も、観光でお越しになっていたのですが、「ハ・ツェチュのトンドルの刺繍は手が込んでいる!布使いも丁寧!ヤクもいて、ハらしくて可愛い!」と絶賛していらっしゃりました。

ハ・ゾン内部に掲げられたトンドル

さりげなく入ったヤクの刺繍、わかりますか?
ハの人々が、嬉しそうにお祭に参加している様子、彼らの表情を見ているだけで、幸せな気持ちになることができた、まさに「ハレの日」、ツェチュ。農家ホームステイのお母さんや、ローカルガイドなど、地域の人たちの多くが顔見知りのため、皆さんの晴れ姿を見るのもまた一興でした。パロやティンプーとは違い、規模も小さい代わりに、人も踊りも距離が近い、田舎の魅力がたっぷり詰まったハ・ツェチュ。Facebookにも当日の様子をアップしましたので、ぜひご覧になってみてくださいね。
動画
画像①:チャム(仮面舞踏)編
画像②:トンドル(仏画タペストリー)編
画像③:ローカルガイドとハの人々編